水漏れを防ぐための緊急対応マニュアル

僕のバスルームは、ささやかながらも一日の疲れを癒してくれる聖域だった。しかし、その平和は、ある日を境に静かに崩れ始めた。水漏れ修理で配管交換するには高石市ではシャワーを浴び終えた後、洗い場の排水口に溜まった水が、なかなか引いていかないのだ。最初は数分だったのが、やがて十分経っても足首が浸かるほどの水たまりが残るようになった。見て見ぬふりを続けてきたが、ついに髪を洗っている最中に、泡立ったお湯が足元でダムのように堰き止められるに至り、僕は重い腰を上げる決意をした。これは、僕と排水管との長い戦いの始まりだった。 最初の作戦は、近代化学の力を借りる、極めて文明的なアプローチだった。富津市では台所専門チームが配管つまりトラブルでドラッグストアで最も強力そうなパッケージの液体パイプクリーナーを手に取り、その「注いで放置するだけ」という甘美な謳い文句に全ての望みを託した。帰宅後、期待を込めて粘度の高い液体を排水口へと注ぎ込む。説明書通りに三十分放置し、大量のお湯で洗い流した。さあ、どうだ。しかし、結果は無情だった。流れの速さは、ほんのわずかに改善したような気もするが、それは誤差の範囲。根本的な解決には程遠い。僕の排水管に巣食う怪物は、化学兵器をものともしない、手強い相手であることを思い知らされた瞬間だった。 化学がダメなら、残された道は一つ。物理だ。インターネットの深淵をさまよった僕は、やがて「ワイヤー式パイプクリーナー」という、原始的かつ直接的な武器の存在を知った。ホームセンターで手に入れたそれは、３メートルほどの金属製のワイヤーの先端に、螺旋状のヘッドがついた、いかにも「何かを貫き、絡め取る」ための形状をしていた。その無骨な姿に、僕はなぜか胸が躍った。もう小手先の技は通用しない。ならば、直接敵の本丸に乗り込み、物理的に叩きのめすまでだ。 排水口の蓋を外し、恐るおそるワイヤーを差し込んでいく。最初はスルスルと何の抵抗もなく入っていくが、１メートルほど進んだところで、グッと何かに突き当たった。来た。こいつが犯人だ。僕はワイヤーのハンドルを握りしめ、ゆっくりと回転させながら押し引きを繰り返した。ゴリゴリ、という鈍い感触が手に伝わる。これが正解なのか、それとも排水管を内側から破壊しているだけなのか。一抹の不安がよぎる。しかし、もう後には引けない。何度か根気よく格闘を続けていると、突然、それまでの抵抗が嘘のようにフッと軽くなり、ワイヤーがさらに奥へと吸い込まれていった。貫通したのだ。勝利を確信した僕は、ゆっくりとワイヤーを引き抜き始めた。そして、その先端に現れたものを見て、僕は言葉を失った。そこには、長い髪の毛と石鹸カス、そして正体不明のヘドロが絡み合い、圧縮された、黒くおぞましい塊がぶら下がっていたのだ。僕の排水管に巣食っていた怪物の、無惨な亡骸だった。 その塊を処理し、仕上げに水を流してみると、ゴオオオッという、ここ数ヶ月聞いたことのないような力強い音を立てて、水が渦を巻きながら排水口へと吸い込まれていった。詰まりが完全に解消されたことを証明する、勝利の凱旋ファンファーレだった。この戦いを通じて僕は学んだ。液体クリーナーは予防や軽度の詰まりには有効だが、それでダメなら根本原因はもっと根深い。そしてワイヤー式クリーナーは強力な最終兵器だが、一歩間違えれば自爆（配管破損）しかねない危険な道具でもある。何より、問題は溜め込まず、異常を感じたらすぐに手を打つこと。そして、この戦いに勝てないと感じたら、潔く白旗を上げてプロという援軍を呼ぶ勇気も必要なのだと。僕のバスルームには、再び平和が戻った。しかし、あのヘドロの塊の感触は、今も僕の手に、そして記憶に、生々しく残り続けている。